収穫
かねてから計画していた作戦を実行に移した。
「かねてから」と偉そうに言ったところで、それは土曜日に思いついたことだから、作戦もその程度の規模なのだ。
「実りの季節」を収穫しよう。あんなに沢山落ちていたのに、写真に収めただけでは片手落ちではないか。
最近一緒に旅する仲間とは、海に行けば貝やらカニを捕まえて味噌汁にするし、山に行けば怪しげなキノコを採って酒の肴にする。銀杏なんて名前の分からぬ貝やらキノコに比べれば、安全マークがついた優良食品ではないか。
大木土門脇の通用路は朝8時50分に扉が開く。そのタイミングを狙っていけば、あれだけの数の銀杏をいともたやすく手に入れられる。それが作戦の格子だ。
果たして日曜日、その作戦は実行に移された。
ところがだ、不思議なことに、時間は大して遅くなかったのに、通用路には土曜日のような実りがなかった。木の下に落ちているのを帽子をかぶったおばちゃんが拾っていたがそれもごく僅かのようだった。
御苑のおっちゃんが扉を開ける前に拾っていったか?
自転車を停めるまでもなくそのままそこを通り過ぎたが、そのとき同時にひらめいた。
「明日は月曜で御苑は休みだ。この通用路も開かない。ねらい目は明後日火曜日だ」
だから、雨だろうと何だろうと、今日は自転車で来たかった。
作戦は見事に成功した。
絵画館前で少しぼんやりしすぎて予定より時間が遅れたが、1日半扉の閉まった通用路に銀杏は足の踏み場もないほどだった。
通勤途中のサラリーマンが用心深く避けて歩いている。
こんな小雨だ。他にそれを目的に来てる人もいない。2-3分でコンビニ袋7分目の収穫があった。
もっと粘ればいくらでも採れたが、欲をかいてはいけない。ちょうどそこへ次の「銀杏拾い」がやって来た。
Googleというのはすごいモノで、先人の知恵を何でも教えてくれる。
周りの果肉をブチュッと取って、水洗いして1週間から2週間天日に干せば出来上がりだそうだ。ゴム手袋が有用と。
早速、100円ショップに自転車を走らせ、厚手のゴム手袋とプラスチックのザルとバットがセットになったようなのを買ってきた。おぉ、「銀杏セット」だ。すごいぞ、ラルゴで売り出すか?
冷たい霧雨の降るこんな日は、きっと暇だ。そうふんで作業開始。
ところがだ、すべきは単純なことなれど、いかんせん数が多かった。剥いても剥いても数は減らず、辺りに匂いは立ちこめて、修羅場になってきた。
「すごいですねぇ・・・」
そう笑って同じビルのおばちゃんが通り過ぎたが、そんな事をやっていることがすごいのか、剥いてる数がすごいのか、はたまた匂いがすごいのか。ぼうっとしながら、最後のそれのような気がした。